今回の登場人物はR。
Rは1年生の中でただ一人、リズムトレーニング(入門編)のテストを受けに来て、現在80番まで合格している。受けに来ていることが、合格していることが偉いのではない。そんなことは部員ならば当然のことだからだ。紹介する必要があるなと思わせたのは、Rが頑張りたいと思った理由にある。
Rがリズムトレーニングで、1年生の中で先頭を切りたいと思った理由は次のようなものだった。
「自分には発言力も行動力も、楽器の演奏能力でみんなの手本になる力もない。だったらせめてリズムくらいだったら自分でも勉強して、他の1年生よりも先に進んでおいて、自分が理解したことを他の1年生に伝えることくらいはできるのでないか。それに、もしかしたら自分が受けにいくことで誰かが続いてくれるかもしれないと思ったからです。」というものだった。アンサンブルの聞かせ合いの時に、私に「拍のアクセントを理解していないリズムトレーニングなどなんの意味を持たない」と講評された日の事だ。Rはもっとも低い板は自分、もっとも変わらなければいけないのは自分であると考え、行動に移した。
残念ながらRの思いは他の1年生に影響を与えることはなく、現時点で1年生の中でリズムトレーニングを受けにきたものはR以外いない。Rは毎朝「誰か他の1年生は受けにきましたか?」ときき、「いや」という答えを聞いて悲しそうな顔をしている。しかし、Rよ。君は他の1年生に影響を与えることは今回できなかったが、自分が変わりたい、変わらなければならないのだという意思を発し、行動に移し、それが三日坊主ではなく、一週間継続したことによって私からの信頼を得ることはできた。確かに今の君にできることは少ない。しかし、誰かからの問いかけに対して「反応する能力=責任(response +ability=responsibility)」はできるようになった。周囲から信頼されるようになれば、できない期間=成長の途中と思ってもらえる。
2年生の行動は2年生内では影響し合うことができたが、1年生にはRにしか影響を与えることはなく、30日になってようやくRが10番まで合格した。Rは現在80番まで合格している。2年生は経験上わかると思うが、80番程度まで来ると、強拍、弱拍などの拍のアクセントは大体わかるようになってきて、1日に20曲程度合格することはそれほど難しいことではない。
2年生のように周囲に自分を刺激してくれる友人がいるとお互いに成長していくことができるし、成長している時間も楽しく過ごすことができる。反対にRのように周囲からの反応がない状況では、孤独感ゆえに今はあるやる気も弱まってしまう可能性がある。しかし、2年生が行動面で自分たちの仲間であると受け入れてくれる可能性もある。もしそうなったらRは自分の居場所を変えればいいだけのことだ。
人材は人材同士、人財は人財同士で最終的にはくっつくものだ。もちろん人罪同士も同じこと。
今回のRの、自分が誰かの役に立つために自ら先頭を切ったこと。その結果、信頼を得ることができたこと。人材から人財になるためのいい例だといえる。Rにとっても、そうやって理解が深まることで自信が付き、以前に比べて追い詰められても「はい」と返事をし、自己流の練習をするしか手段がなかった時と比べて、フルートに関することも質問できるようになってきたことは実感できるだろう。楽器の音が誰が聞いても成長したと変化を感じさせるにはまだ少し時間が必要だが、正しい努力を重ねていけば必ず結果は出る。ただ、頑張り続けるためには自分の心に火をつけてくれる仲間が必要で、その仲間は必ずしも同学年である必要はない。
本来、リズム面で先頭を切らなければならない人間は他にいるはずなのだ。周囲を見渡し自分の役目を率先して引き受けることのできない人間は、そうしたことに気がつかない。そういう人間を悪く書くことは簡単だが、今回は頑張って成長しようとしている人の話ということで…。
カテゴリー「ブラスのひびき」とは、私が現役の教員時代に生徒に配布していた吹奏楽部通信でのタイトルです。そのため、高校生に語りかける文体になっています。予めご了承ください。
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