音楽について
2023年03月03日

間違いだらけの…(速度記号編)

私たちは一度覚えたことに疑問を抱かないことが多いですが、小さい子どもなどは「何でー?」と無邪気に聞いてきて、大人が返答に窮するということはよくある話です。

今回はメトロノームに書かれている速度記号を取り上げていきます。

遅い方から順に、

Largo

Adagio

Lento

Andante

Moderato

Allegro

Vivace

Presto

と、このような順に表記され、上から下に進んでいくにつれ、テンポも早くなるイメージを持っています。日本語訳もLargoからLentoまでが「遅く」、Andanteが「歩くような速さで」、Moderatoが「中庸な速さで」、AllegroからPrestoまでが「速く」とか「快速に」とか訳されたりしています。「中庸って何?」とか、「歩くような速さって誰の歩く速さ?」とか、同じ「遅い」ならLargoとLentoは何が違うの? Allegro Moderato「速く中庸に?」ってどうすればいいの? など、いろいろな「何で?」が出現したものです。

 下にある表は洗足学園音楽大学が運営している「洗足オンラインスクール」の中にあるものです。ここで大事なのは一番右側の「言葉の持つ意味」です。さすが音楽大学です。

標語(イタリア語)

Largo

Adagio

Lento

Andante

Moderato

Allegro

Vivace

Presto

よく用いられる日本語訳

(幅広く)ゆるやかに

ゆるやかに

おそく

歩くような速さで

中くらいの速さで

速く

活発に

きわめて速く、 急速に

言葉のもつ意味

「幅のある」「広い」「ゆったりした」

「ゆっくりと」「静かに」

「遅い」「のろい」「ゆるんだ」

「適度にゆるやかな」「平凡な」

「ほどよい」「節度のある」

「陽気な」「快活な」

「元気のよい」「快活な」

「すぐに」「急いで」

洗足オンラインスクールより引用

https://www.senzoku-online.jp/index.html

ここで記されている音楽用語はイタリア語ですから、当然イタリア語としての意味を持っています。研究社伊和辞典で「Largo」と「Allegro」を引いてみると次のように書いてあります。

Largo ①幅のある ②広い
Allegro ①陽気な 快活な ②明るい

Largoは英語に置き換えれば「large」ですから、幅広いなどの意味であることも想像しやすいのではないでしょうか。余談ですが、allegro=明るいが転じて、musica allegra=陽気な音楽、storielle allegre=猥談(エロ話)と表現したりします。どこにも「速く」の意味などないのです。

速度記号も元々の意味を考えると作曲者がどう表現して欲しいかメッセージが込められているのでは? と考えると楽しくなってきませんか? 最近の楽譜、特にポップスではメトロノーム記号だけだったり、FastとかSlowなどの英語表記のものを多く見かけます。残念に思います。陽気さ(Allegro)なのか、小動物のようにチョコマカとすばしっこ(Vivace)なのかでは同じ「速さ」を示していても曲のイメージが変わってきます。♩=120では、曲のニュアンスがわかりません。

正しい意味を理解させるためにも洗足学園音楽大学さんのように、きちんと言葉の持つ意味を学校教育の段階で正しく理解できるよう、(教科書)出版社の方々にもぜひ頑張っていただきたいものです。速度標語が単なる速さや遅さを示しているのではなく、表現のヒントとして捉えさせることは、子どもの段階で想像力をかき立てるいい機会だと思うのです。私がテスト問題を作るのならば、必ずこの「言葉の持つ意味」を答えさせますね。知識面も教養面も育てたいからです。

この正しくない意味で覚えてしまっている風潮は速度記号に限ったことではありません。それはまた別の機会にご紹介いたします。

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