今回から、先日お邪魔した都立高校での合唱指導の際、用いたレジュメの解説をしていきたいと思います。合唱祭などの学校行事では、多くの先生方がとにかく声を出させることに必死になりがちです。これを男子生徒に行った場合、多くの男子生徒は地声になってしまいます。ただでさえ変声期を経て声自体に違和感を感じている時期です。今自分が出すことのできるもっとも美しい声で発声するように指導するべきです。
1.発声
声は「大きさ」ではなく「響き」で歌うもの
音楽は芸術文化ですから、他の文化とも密接に結びついています。そしてその文化は地理的な環境や宗教的な背景によってもっともふさわしい形に発展していきます。我々は西洋音楽を基盤とした指導を行っています。日本と違い、地震の少ないヨーロッパの建築物は石造りの背の高い教会などに代表されます。教会の中で歌われる讃美歌は建物の中で何度も反響し、最後には高い天井から歌声が降り注いできます。そのため、自身の体から大きな声を出す必要はなく、息をたっぷりと使った響きのある声が求められていきます。中国から沖縄に伝わった三線の胴体には蛇が用いられました(蛇皮線)が、本土に渡り三味線となった時には猫や犬の皮が用いられました。地理的要因です。また、これらの関連性は、米の産地と小麦の産地が異なるように、食文化や服飾文化も同様です。今求められている教科横断的な指導に繋げることも可能になります。
話を戻します。正しい発声とは大きな声を出す地声ではなく、息をたっぷりと用いたよく響く裏声的な声が求められるということになります。打楽器に置き換えて考えてみるとイメージしやすいのではないでしょうか。カスタネットのように叩くことによって自分自身から音を出すものと、ティンパニのように叩かれた後に自身の空間を利用して響きを作り出すタイプのものです。発声の場合、声そのものは声帯の振動によって作られますが、その後の共鳴は自身の空間(口腔や鼻腔)を活用し、歌っている空間の響きを最大限利用して行われるべきなのです。これは楽器演奏でも同じことが言えます。いわゆる地声音になってしまっている生徒がたくさんいます。響きで演奏するということを知らないためです。廊下や階段で演奏すると響く音を出すことができた時に、心地よい残響を感じることができます。ところが吸音材が多く用いられた音楽室ではこの残響を感じることが非常に難しいため、どうしても直接聞こえてくる音に傾きがちになります。
ちなみに、昔は讃美歌はユニゾンでした。教会内の壁や天井に反響した後に、自分たちの出していない音が聞こえてきます。これは高次倍音であることは現在では解明されていますが、当時の人たちは自分たちの祈りが通じ、主や天使が応えてくださったと信じられていました。
基本はフクロウの声
裏声は伝え方に苦労します。以前は悪の組織(ショッ⚫️ー)の隊員の声とか、カップルをからかうときの声(ヒューヒュー)とか、色々と伝え方はありました。私は今はフクロウの声が時代に関わらず最も中高生に伝わりやすいと思っています。フクロウの声の指導方法はジャパンライムから発売されている「初めての混声合唱指導」というレッスンDVDに詳しく紹介されています。
この練習は全パートに効果があります。特にテノールの地声矯正に大きな効果を発揮します。ところが、フクロウの声による裏声の練習をすると全ての声が裏声でなければならないのかと混乱してしまいがちになります。バスやアルトは音域的に対応不可能になります。答えはNoです。このブログの中でも裏声と裏声的な声を使い分けているように、発声の目標の一つは、息をたっぷりと使った声です。地声の時、息を吐くことはほとんど行われていません。たとえ音域的に地声であっても、呼気を伴った声であれば響きを伴います。息が声帯を振動させることにより、結果的に声が出るというイメージです。結果としてよく言われる喉が開いた状態(オープンスロート)になります。オープンスロートについてはよくあくびのように息を吐くと例えられます。ただ、響きを伴うためには、母音をどこに響かせるべきかという技術的な課題が発生します。
母音を響かせる場所を知る
声楽ですと、さらに細分化することもできますが、ア・イ・ウ・エ・オに加えてンの6種類の響きが存在します。これらを口腔内のどこに響かせるイメージを持つかによって、声が出しやすくなります。
確認の仕方は、手を大きく開き、顔の横へセットします。(手のひらが顔の方を向く状態)
小指から順に
ウ(小指)⋯⋯⋯硬口蓋、鼻骨
オ(薬指)⋯⋯⋯硬口蓋、鼻骨、額
ア(中指)⋯⋯⋯軟口蓋、頭頂部
エ(人差し指)⋯頭頂部から後頭部
イ(親指)⋯⋯⋯後頭部から首の後ろ
図にすると以下のようになります。
出しにくい母音のイメージがありますが、これらの母音の中でも「イ」と「ウ」は完全な頭声発声になります。響きを感じ取りやすい母音です。声を出してみたときに、頭頂部とそれぞれの母音ごとに当てるポイントに振動が伝わっているといい状態です。やってみると、頭頂部に一番振動がきにくいのが「ア」であることがわかるはずです。「ア」は一番口を大きく開けやすいので、オープンスロートになりにくく、息を回す感覚も掴みづらいのです。息を回すこととオープンスロートについては呼吸のところで解説します。
次回は以下の内容です。
姿勢及び呼吸
- 息は骨盤から吸う
- 吐く時はクラシックバレエの1番
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