レッスン報告
2023年08月15日

都立高校の合唱指導に行ってきました 1.発声 その4

今回の内容は以下の通りです。

実際に歌う上での注意
  • 記号が変われば音量は倍
  • 上手な人のマネをする(そうすれば自然に揃ってくる)
  • 歌が苦手な人は前に立ち、後ろから答えを教えてもらう
  • 同じmfでも、メロディーと他パートとでは音量が違う
  • ピアノはとにかく邪魔しがち 独奏と伴奏を分けて

 

記号が変われば音量は倍

演奏をする時に、記号の奴隷になってしまうことがよくあります。そこに書いてあるからやっているという感じのものです。一歩進めて、それをやることによってどのような美しさが引き出されるのか? について考えてみるだけでも、演奏はかなり知的なものになります。

強弱記号も、強弱記号が一段階上がったら音量を倍にするくらいのイメージを持つと変化が現れやすくなります。ppを1としてpが2、mpが4というようにしていくと、ffは32になります。下図のようにグラフにして可視化するとわかりやすいのではないでしょうか。

管楽器ではmfは5秒で吐き切るくらいのイメージでとか教えることはよく行われていますが、合唱ではあまりこうしたことはイメージを持たせることは少ないようです。また、各ダイナミクスごとに母音と子音のバランスにも気を使うべきです。ppからmpまでの母音の音量がpに括られるグループは子音をfにします。反対に母音の音量が上がっていけば子音は曖昧にしていきます。

 

上手な人のマネをする(そうすれば自然に揃ってくる)

プロの集団ではないので、個人の実力差はあって当然です。それは部活動レベルでも同じことが言えます。特に部活動になれば、下級生は上級生に及ばないことが多々あります。そんな時には、できる範囲の中で上手な人の真似をすることがポイントとなります。同じ結果である必要はありません。同じことに取り組ませるのです。

日本の合唱界の代表的指導者であった関屋晋先生は著書「コーラスは楽しい」の中で、「アマチュアコーラスは城の石垣のようなものだ。それぞれ大きさも形も違うが、隣の人間とピタリと寄り添い、揺るがない強固なものに仕上がっていく。」という内容を記されていらっしゃいます。

得意分野で頑張ってもらいましょう。球技大会ではボールから逃げ回ることが得意技の子もいていいですし、大活躍する子がいてもいい。合唱祭だって同じことです。

 

歌が苦手な人は前に立ち、後ろから答えを教えてもらう

歌が苦手な子は後ろに隠れようとします。当事者の気持ちからしたら当然のことでしょう。しかし、苦手な子を最後列にしてしまうと、萎縮して声が出せなかったり、全然違う音を出したりして合唱によくない影響を与えてしまう場面もあります。

歌が苦手な子は、ほとんどが正しい音をわかっていません。正しい音を聞き取れていない場合と、自分が出している音が正しくないことがわかっていないタイプに分かれます。前者は答えがあればついてくることができます。なので、きちんと音取りができている子に後ろに立ってもらい、プロンプターの役目をしてもらうのです。正しい音がわかっていない子のほとんどは注意深く音を聞いていません。覚える前にとりあえずやってみるタイプです。後者は地道な音感練習を重ねる必要があるので、短期間では改善が難しいかもしれません。しかし、耳の後ろに手を置いて(耳が大っきくなっちゃった状態)アンテナの感度を上げてあげると違いが聞き取れたりします。聞く、記憶する、正しいイメージをなぞることを繰り返し行います。

 

同じmfでも、メロディーと他パートとでは音量が違う

これもよくあることです。どこにメロディーがあるのか、メロディーとの調和を図ろうとせず、自分のパートを独唱曲のようにひたすら歌っている場面です。これも仲間の音を聞いていないことが原因です。意外に思われる方もいらっしゃると思いますが、響き合い、ハーモニーを作り出してこそのコーラスなのだということを教わっていない子はかなり多いです。大きな声を出していればそれでいいと教わってきたのかもしれません。

休み時間の教室はそれぞれのグループがおしゃべりに興じていて、教室全体の言葉を聞き取ることができません。いわゆる「ガヤ」という状態です。それぞれが相手の言葉に耳を傾けず勝手に歌っていたら美しい合唱曲も「ガヤ」になってしまいます。

 

 

ピアノはとにかく邪魔しがち 独奏と伴奏を分けて

ピアノを担当する生徒の負担はとても大きなものがあります。特にコンサートホールなどで合唱祭が行われる場合は、当日初めて触るピアノで合唱とのバランスを取らなければならないのですから、とても神経を使います。

ピアノを担当する生徒によく見られることが、「伴奏」の時と、「前奏」や「間奏」の時のように、音楽の総量を自分ひとりで担当しなければならないときに、演奏に変化が見られないことです。

この辺も工夫が欲しいところです。

 

息は自分の心

「息」という漢字は「自」+「心」でできています。この大切さを訴えていらしたのは沖縄の偉大な吹奏楽指導者、屋比久勲先生の言葉です。屋比久先生は「子どもたちの力を伸ばすのに怒る必要はない」という信念のもと、全国大会出場30回、全国金賞14回受賞、『吹奏楽の神様』とも称された方です。著書を紹介しますので、興味のある方はぜひ一度ご覧になってみてください。

美しい音楽を作り出すために

「心を一つにして」などはよく聞かれる指示ではありますが、具体的に何をしたらいいのかは生徒はわからないと思います。「心を1つにする」ために何をしたらいいのか、具体的に指示を出してあげるべきでしょう。

美しい音楽を作り出すために、誰に寄り添い(隙間のない石垣を作る)、誰の真似をし、どういう息を吸い込み(筆に墨を含ませる)、吐き出す(線を描く)のか。これらを注意深く観察、実践していくことでまず感受性と集中力が高まります。ここまで教えれば大体の生徒は後は自分で考えるようになります。

 

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