その他
2022年03月12日

伝え方の大切さ

 音楽の教科書などでクレシェンドの意味を調べると、ほとんどの場合「だんだん大きく」とか、「次第に強く」と書いてあります。生徒たちもほとんどこのように理解しています。なので、実際に演奏する場合、単純に音量を上げてしまう場合がよく見受けられます。

 音大時代、ピアノの師匠にこう言われたことがあります。楽譜には音楽を演奏するための情報の20%しか記されていない。残りの80%は楽譜の隙間から“美”を引き出す必要がある。多面体もどこから見るかで見え方が変わる。円錐を真上から見れば真円だし、真横から見れば三角形になる。斜めから見ると立体だとわかる。同じものをどこから見るかによって見え方が変わる。同じ楽譜を演奏しているのに解釈の違い、引き出す美の方向性によって違う演奏結果になる。

さて、クレシェンドの話に戻すと、単純に音量を上げてしまう場合は、どのような“美”を引き出すかを何も考えずに演奏している時です。クレシェンドはイタリア語です。crescendoと書きます。男性名詞なのですが、これを動詞にすると“crescere”となります。この単語の持つ最もよく使われる意味は「成長する、育つ」です。そこから転じて「(植物などが)伸びる」「(声や勢いが)増大する」などの意味を持ちます。

 

 どうでしょう。「ここにクレシェンドが書いてあるからだんだん大きくして。」と伝えるのと、「ここのクレシェンドは植物がぐんぐん育つイメージで演奏してみよう。」と伝えるのでは演奏結果が大きく変わってきます。前者の伝え方だと、生徒たちは考えません。美に対する意識も育ちませんし、記号に従属するようになります。そのまま大人になったらただの指示待ち人間になってしまうかもしれません。

 音楽指導に携わる人は誰もがみな、生徒たちには音楽活動を通じて豊かな感受性を磨いてもらいたい。問題解決のために創意工夫をしてもらいたい。仲間たちと合わせるために協調性を磨いてもらいたい。より豊かな人間へと成長してもらいたいと願っているはずです。

伝え方の大切さを、最近特に強く感じています。