吹奏楽コラム
2024年04月08日

イメージする力

前回の大人と子どもの違いで対他的配慮について書きました。対他的配慮とは、自分が何かアクションを起こしたときに周りがどう感じるかをあらかじめ考えること、もし〇〇を実際にやってしまったら自分が(相手が)どうなってしまうだろう? ということです。ネットでの誹謗中傷を行った人が、相手が法的措置を検討していると表明した途端に自分の投稿を削除したり、弁護士に相談したりといった話がありますが、これは対他的配慮が欠けていることに加えて、その先がどうなっていくか具体的にイメージできていない軽率な行動といえます。

一つ吹奏楽部でよく起こりがちな例を出して考えてみましょう。部員と顧問の仲が悪く、「あの先生のもとではやりたくない。顧問を代えてほしい。」と関係が拗れてしまった場合です。文句を言うだけならよくある光景ですが、実際に顧問を変えるとなると生徒の側はどのような手続きを踏まなくてはならないでしょうか? 列記してみましょう。

部活動は顧問の指導がいないと活動できないため、新たな主顧問を探す必要があります。一般的には主顧問が一人、副顧問が数人いる場合が多いため、副顧問の誰かに主顧問の就任を打診することになるでしょう。主顧問が見つかるまでの間は活動はできません。主顧問A先生を外して、副顧問B先生に主顧問就任を打診したとします。果たしてB先生は引き受けるでしょうか? B先生とA先生は同僚です。同じ職場の仲間です。B先生は安易に引き受けるべきかどうか当然考えます。A先生との関係がどうなってしまうか、相談に来た生徒たちの気持ちを大切にするべきかそれぞれ対他的配慮を働かせます。多くの場合は「A先生ともう一度よく話し合ってごらん。」とやんわりと突き返すことでしょう。その間にA先生にどういうことなのか事態の確認を行います。

仮にB先生が主顧問を引き受けれくれた場合、次に練習場所の問題が発生します。主顧問A先生が音楽科の先生の場合、関係が破綻したのですから音楽室の使用はあり得なくなります。「覆水盆に返らず」です。そうなると新主顧問であるB先生の責任において管理できる練習場所が見つかるまでは練習ができなくなります。音楽室は音楽科の先生が防火責任者として管理しています。主に音楽の授業や教材研究のために使われるのであって吹奏楽部の専有物ではありません。コーラス部や軽音楽部があるにも関わらず、吹奏楽部は当然のように音楽室を使用している場合が多いのではないでしょうか。これは音楽室を管理する音楽科の先生がご厚意で使用を許可しているからです。

 

次に指導者の問題が出てきます。顧問B先生がA先生以上に吹奏楽に対して専門的な知識や指導技能を有している場合も考えられますが、多くの場合はそのようなことはないでしょう。そうなると外部の指導者を招聘する問題があります。費用面の問題が出てきます。相場は1時間あたり5,000円から15,000円くらいでしょうか。指導者のレベルや実績によって変わりますね。指導する側もただお金をもらえればどんな生徒でもいいというわけではありません。指導者側だって自分の持っている音楽的な知識や指導技術を伝えて、音楽にないして喜びを感じてもらいたい。成長を実感してもらいたいと願っています。人として当然の欲求です。伝えたことをきちんとこなして、次回までにきちんと成長してくれていれば指導する側と受ける側の信頼関係は良好なものとして継続されるでしょうが、行われない場合は指導者側が断ってくるでしょう。やる気がないとわかっている部活に対して喜んで指導を引き受ける人はなかなかいないものです。

 

どうでしょう。まだまだ顧問の引率が必要な行事(野球応援など)、合宿、コンクール、その他の音楽会、定期演奏会など、いわゆるヒト・モノ・カネの問題がついてまわります。顧問B先生がこれらの問題を全て理解・納得の上お引き受けくださることも0%ではありませんが、どうでしょう…。

 

物事は最悪の事態を想定しておくべきであるとよく言われます。顧問A先生を更迭しようとするだけで、ここまでの問題をきちんとイメージできていて、解決への道筋が用意されていれば行動を起こす前の危機管理能力としては十分なのではないでしょうか。子どもだったら「あの先生ヤダ!」と自分の目線でいっていればいいのですが、大人であれば第三者的な俯瞰した視線を持って「A先生に去っていただくためにはどういう条件が整う必要があるか?」と可能な条件を洗い出すところから始める必要があります。

音楽に限らず芸術活動は「想像(image)し、創造(create)する」分野です。想像力は必須能力です。

今回は、「もし〇〇を実際にやってしまったら」について例を挙げて考えてみました。

 

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