レッスン報告
2023年12月04日

休符の多い部活

先日、ある高校の指導に行ってきました。顧問の先生のお悩みは部員間の意識が乖離していて練習時間の密度が非常に薄い。限られた高校生活が勿体無いということでした。

顧問の先生にご紹介いただき、挨拶を済ませた後いくつかの問いかけをしてみたのですが、生徒の反応がとにかく静かなのです。部長さんを指名すると、彼女は聡明な子だったので何とか反応しようとしているのですが、他の生徒は音が鳴っている時間よりも、沈黙の時間がはるかに多い状態でした。音符がちょこっとあって、あとは休符ばかりの状態でした。

とりあえずアイスブレイキングとして、「ここは音を出す部活だから、なるべく意志ある音を自分の声で出そう。自分の中に意志がないと楽器からも良い音が出ないからね。」と伝え、レッスンスタートです。

 

まずはチューニングの様子を見させてもらいました。チューナーに頼り切りで、自分の耳で判断していませんし、隣の人の音も聞いていません。顧問の先生のお悩みがよくわかります。チューナーに何とか近づけて行こうとしているので、まず音に生気がありません。息も入っていませんから鳴りもしませんし響きもありません。(以前のブログ「基礎合奏テキストより」をご参照ください。)

 

息をしっかり吸って、吐くときには軟口蓋から頭蓋骨全体を振動させるように息を吐き、自身と楽器を共鳴させる必要性などを説き、それらをやるとこうなるんだよと Caro nio ben の冒頭部を歌ってみました。これは生徒たちには分かりやすかったようで、拍手で反応してくれました。「息」という漢字は「自分の心」と書きます。息を吸うことは筆に墨や絵の具を含ませる行為。息を吐くことは実際に色や線を描く行為。自分の中に描きだしたい「美」のイメージは不可欠です。(以前のブログ「都立高校の合唱指導に行ってきました 1.発声 その3」をご参照ください。)

 

やってみるのですが、なかなか全力で取り組むことができません。1回でやり切ることができれば時間密度を自然と濃くできるのですが、そういう習慣はなく、問題意識も感じていないようです。なので、ある高校の話をしました。都内のある強豪校の話です。その学校のスローガンは「今日の自分は100%だったか」という言葉です。「100点を取ることはできなくても、100%かどうかは自身の心一つでどうともできる。では、君たちは今の自分は100%ですと言える人は挙手してごらん?」と聞くと、やはり誰も挙手できません。これで生徒たちに自己肯定感を下げさせたいわけではありません。「同じ高校生なのに何という差か」という「無知の知」の状態に気づいて欲しいのです。

それでも、100%を目指して少しずつ変わってきました。時間内の音符の数が増えて来ました。では次の課題です。生命力の乏しいバンドにはリズム遊びが効果的です。音楽の三要素について説明し、リズムの果たす役割を教え、足踏みとハンドクラップを用いてのリズム遊びです。これはどの学校に教えに行っても効果があります。徐々にうまく行ったり行かなかったりした時のワーキャーが増えて来ます。うまく行かなかくても楽しいというマインドが入り込んできます。

後日顧問の先生から「生徒たちから定演までにもっと内藤先生のレッスンを入れて欲しいと申し入れがありました(レッスンのアンコールが生徒から出て来たのは初めてで驚いています)。」と連絡をいただきましたが、続きは以下のようなものでした。「それでも月曜日に再度集まった時には、合奏でも返事をしない、チューニングはいい加減、ブレーンストーミングもしていない、そもそも休んだ人との共有すらしていない、といった状況で、分かっていたこととは思いつつ、お説教してしまいました。「無知の知」を自覚するところから始めてみようと思います。」

生徒は形状記憶合金ですので、すぐに戻ってしまいます。今回は初対面なので点が打たれた状態です。それでも、また呼んで欲しいと言われたので、短い線が引かれる可能性が出て来ました。次回は確実に短い線を引くこと。そして、それをだんだんと長く太くしていくことです。

頑張ります。

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